飢餓の時代では、インスリンは不要な物質であった

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現在は飽食の時代といわれ、生活習慣病が問題になっています。生活習慣病の一つとして糖尿病が知られており、多くの糖尿病患者が存在します。

糖尿病の治療を考えるとき、インスリンの存在が重要になります。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンとして知られています。そのため、糖尿病治療薬の多くは「インスリンの働きを強くする」ことで効果を発揮する場合が多いです。

食事療法や運動療法を実施するときであっても、結局はインスリンの働きを正すことが目的の一つです。脂肪細胞が小さくなるとインスリンが効きやすくなるため、結果として血糖値が改善していくのです。

ただ、過去の歴史をみるとインスリンはまったく重要な物質ではありませんでした。それでは、なぜインスリンがあまり重要視されなかったのかについて、飢餓の時代までさかのぼって話を進めていきます。

飢餓の時代に重要な血糖値を上げる仕組み

長い間、人間は飢餓の時代を生きてきました。これは人間に限らず、あらゆる動物に共通します。狩猟を行うなど、いつ食べ物にありつけるのか分からない状況が続いたのです。

ただ、脳にとって糖は必須となる栄養素であるため、糖がなければ正常な判断を行えなくなります。低血糖状態に陥ると寒気や手足のふるえが起こるようになり、最終的には昏睡状態にまで陥ります。これを防ぐため、血糖値は常に一定の値に保たれるようになっています。

私たちの体内には、血糖値を上げる仕組みがいくつも存在します。これは、かつて飢餓の時代を乗り切っていくために必須の機構であったと考えられます。栄養がない状態で、どのようにして血液中の糖濃度を維持するのかを考えていたのです。

そういう意味では、血糖値を下げる機構は重要ではありませんでした。前述の通り、食物がない状況では血糖値を下げることよりも、血糖値を何とかして上昇させることの方が大切だったからです。

ただ、「血糖値を下げる機構」がまったくないのは困ります。食事をしたときに一気に栄養としての糖を摂取するため、一時的に血糖値が急上昇します。また、このときの糖を筋肉や脂肪などの組織に蓄えておくことで、再び飢餓状態に陥ったときに備えなければいけません。

そこで人間は仕方なく、たった一つだけ血糖値を下げるホルモンを残すという選択をしました。それが、インスリンだったのです。

飽食の時代でのインスリン

このように、かつてはインスリンはどうでもいい物質でした。それが現在のように状況が変わり、食べ物が余るようになると状況が一変します。糖尿病などが問題になることで、インスリンに脚光が浴びるようになったのです。

飢餓の時代を生きてきたことから分かる通り、人間は「どのようにして効率よく栄養を吸収し、蓄えることができるか」を考えてきました。そこで、糖や脂質を体内に貯蓄し、必要なときに効率よくエネルギーを生み出すように進化してきたのです。

つまり、私たちは全員が栄養を蓄えるように(=太るように)体が出来あがっているといえます。だからこそ血糖値を下げるホルモンは一種類しかありませんし、食べ物がなくても何日も生きられるような構造になっています。中には痩せ型体質の人もいますが、飢餓の時代では生き残れなかったであろうと推測できます。

糖尿病を治療するとき、インスリンが重要視されます。ただ、「血糖値を下げる重要なホルモンがなぜ1つしか存在しないのか」を考えたとき、過去の歴史をみたときにその答えを推測できます。

周囲の環境が変わることで、糖尿病のような病気が増え、それまで重要視されなかった物質が急に着目されるようになることがあります。その中の一つがインスリンであるといえます。