人によって薬の効果が異なる理由:個人差、人種差

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人が違えば、薬の効き目が異なります。それを、個人差といいます。また、人種が違うことによっても効果が違います。これを人種差といいます。

それでは、なぜ個人差や人種差が存在するのでしょうか。この理由について、薬の効き目から解説していきたいと思います。

代謝酵素によって効果が異なる

薬は血液にのって全身を巡ります。このとき、血液中の薬物濃度が高ければ、その分だけ薬の効果が強くなることは想像できると思います。

薬は異物であるため、時間経過と共に体内で代謝されます。このときの代謝には、肝臓に存在する酵素(代謝酵素)が関わっています。ただ、人によって代謝酵素の働きに違いがあります。

例えば、代謝酵素の働きが通常の人よりも弱いと、薬はなかなか分解されずに体の中に蓄積しやすくなります。薬が多く残留するため、薬の効き目が強くなり、結果として副作用を引き起こしやすくなります。これが、薬による個人差(個体差)に繋がります。

これは、アルコールを考えると分かりやすいです。お酒の強い人と弱い人がいるのはよくご存知でしょう。アルコールをいくら飲んでも大丈夫な人もいれば、すぐに酔ってしまう人もいます。これは、代謝酵素の働きが個人によって異なるからです。

アルコールが体内に入ると、アセトアルデヒドを経て酢酸へと代謝されます。このときに発生するアセトアルデヒドが、悪酔いの原因となります。

これらアルコールの代謝には酵素が関わっており、この酵素の働きが「強いか」または「弱いか」によってお酒の強い・弱いが決まります。酵素の働きが強ければ、「アルコール → アセトアルデヒド → 酢酸」への変換がスムーズになります。

一方、酵素の働きが弱ければ、酢酸への変換が滞るためにアセトアルデヒドが体内に溜まってしまうことになります。その結果、二日酔いを招く原因となります。

つまり、「お酒の強い人と弱い人」がいるのは、代謝酵素に違いがあるからです。遺伝子の違いによって、酵素の働きにも違いが表れるのです。

アルコールの強い・弱いから考える薬の働き

これとまったく同じことが薬にも起こります。アルコールの代謝酵素と同じように、肝臓に存在する代謝酵素は、わずかな遺伝子変異によってその働きに違いが表れます。

代謝酵素の働きが正常な人であれば、薬の代謝が進むことで薬が体の外へ順調に排出されていきます。しかし、遺伝子変異によって代謝酵素の働きが弱い人では、なかなか薬が代謝されないために薬物が体の中に蓄積しやすくなります。

つまり、そういう人の場合、通常の投与量であっても副作用が表れやすくなるということです。これが、「人によって薬の効果が異なる」という個体差にも繋がります。

次に、「人種差」です。お酒を例に挙げると、約44%の日本人が、遺伝的要因によってアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが生まれつき弱い(=お酒に弱い)と言われてします。

しかし、白人や黒人では、ほぼ100%の割合でアセトアルデヒドの代謝酵素の働きが正常だと言われています。つまり、お酒の強い・弱いに関して言えば、日本人と外国人では大きな人種差があるということです。

薬も同様です。代謝酵素の違いによって、薬を代謝する能力が日本人と外国人で異なることがあります。これが、薬の効き目で人種差が表れる理由となります。

ちなみに人種差という面で考えると、日本では「欧米で使用されている用量」よりも少ない量で薬が使用されることがあります。これはただ単に、「日本人は欧米人よりも体格が小さい」という理由からです。

代謝酵素の強さに違いがあったり、体格が異なったりすることにより、欧米人のデータを元にして開発された薬を日本人が使用する際、薬の効果に違いを生じてしまうことがあります。そこで、日本人に合わせた独自のデータを取ることによって、他社との差別化を行っている薬もあります。

例えば、「血液を固まりにくくする薬」にイグザレルト(一般名:リバーロキサバン)という薬がありますが、これは血栓の生成を防止することで脳卒中などの発症を予防する薬です。ただ、この種類の薬は「出血」という副作用があるため、適切に用量調節をしなければいけません。

イグザレルトの海外での用量は1日20mgですが、それに対して日本では、1日15mgに設定されています。これは、日本独自の臨床試験を行った結果、この数字が「日本人に適した用量」と判断されたためです。

薬を開発する際、日本では海外での臨床試験データを使用することは多いのですが、このように、人種差を考慮して開発されている薬も存在します。