妊娠後期での仰向け姿勢の危険性:仰臥位低血圧症候群の防止

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妊娠中は、胎児の成長に伴っておなかがどんどん大きくなります。妊娠後期になると、おなかの重さは5kgを超えます。特に妊娠9ヶ月頃からは、胎児は1週間で約150~200gずつ体重が増えていきます。そのため、この頃はおなかの重さによる不快な症状が起こりやすくなります。

妊娠後期になると、大きなおなかが原因で眠れなくなることがあります。寝返りが困難になり、入眠時の姿勢も限られます。

妊娠後期には、うつ伏せで眠ることが物理的に困難になります。そのため、普段うつ伏せで眠る人は就寝時の姿勢を変更せざるを得ません。

一方で、妊娠中に仰向けの姿勢をとることは問題がないと思われがちです。そのため、普段仰向けで眠る人は、妊娠中も仰向けでの就寝を続けようとする人が少なくありません。ただ、妊娠後期に仰向けの姿勢になると、おなかが血管を圧迫して母子ともに危険な状態になることがあります。

そこで、ここでは妊娠後期での仰向け姿勢の危険性と、妊娠中に最適な就寝時の姿勢について述べていきます。

妊娠後期に仰向けで眠る危険性:仰臥位低血圧症候群

子宮の後ろ側には、下大静脈(かだいじょうみゃく)が通っています。下大静脈とは、人体で最も大きい静脈のことをいいます。下半身の血液は、下大静脈を通って心臓に戻ります。

妊娠後期に仰向けで寝ると、大きなおなかが下大静脈を圧迫します。そのため、下半身からの血液が心臓に戻りにくくなります。

心臓に血液が戻らないと、心臓から全身に送られる血液の量が減少します。全身をまわる血液の量が減少するため、血圧が下がり全身に酸素や栄養が行き渡りにくくなります。これを、「仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)」といいます。仰臥位とは、仰向けのことです。

仰臥位低血圧症候群になると、気分が悪くなったり冷や汗をかいたりという症状が出ます。重症になると気を失うこともあります。

胎児は母体の血液から酸素や栄養をもらっています。そのため、仰臥位低血圧症候群によって母体の血液循環が滞ると、胎児に十分な酸素と栄養が行き渡りにくくなります。また、重症化して母体が気を失うと胎児の低酸素状態が長く続くため、母子ともに危険な状態に陥ることがあります。

妊娠後期における就寝時の姿勢

仰臥位低血圧症候群の防止には、仰向けで寝ないことが重要です。妊娠後期には、ほとんどの人が仰向けになると息苦しくなったり気分が悪くなったりします。そのため、つらくなったら姿勢を変えることが大切です。

妊娠後期の就寝姿勢として薦められるのが「シムスの体位」です。シムズの体位ともいいます。シムスとは、イギリスの婦人科医の名前です。

シムスの体位は、上半身がうつ伏せでおなかから下は横向きになります。そのため、下大静脈やおなかが圧迫されることがありません。また、おなかを床にのせる状態になるため、おなかを支える力が少なくてすみます。そのため身体の力を抜きやすく、リラックスしやすい体勢といえます。

シムスの体位のとり方

まず、身体の左側を下にして横になります。次に、左足を伸ばして右足を軽く曲げます。そして、上半身をほぼうつ伏せにして下半身は左足を後ろに、右足を前に出してややうつ伏せ気味にします。

クッションや抱きまくらを抱くと自然とシムスの体位になりやすいため、これらを利用すると簡単に行うことができます。抱くほど大きなものがない場合は、右足の下にクッションを挟むと楽になります。

下大静脈は、背中の右側を通っています。そのため、仰臥位低血圧症候群の防止には左側を下にした姿勢が有効です。

シムスの体位の場合、身体がややうつ伏せ気味になるため右側が下になっても苦しくなりにくいです。そのため、寝返りなどで右側が下のシムスの体位になっても基本的には心配ありません。ただ、姿勢によっては下大静脈を圧迫することがあるので、つらさを感じたらすぐに左側を下にしましょう。

どうしても仰向けでないと眠れないときは、身体の右側にクッションなどをひき、身体を傾けることによって、下大静脈の圧迫を軽減することができます。ただ、つらくなったらすぐに左側を下にすることが大切です。