腱鞘炎による産後トラブル

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産後は無理をしてはいけないと昔から言い伝えられています。産後の一ヶ月間を「産褥期(さんじょくき)」と呼び、産後のトラブルが出やすい時期です。この頃に妊娠前の生活を行うと、身体に思わぬトラブルが起こります。

産後のトラブルのひとつに腱鞘炎(けんしょうえん)があります。腱鞘炎とは、腱(筋肉と骨をつなぐ筋)と腱鞘(腱を包むトンネル状の鞘)がこすれて炎症を起こすことです。

産後しばらくは、赤ちゃんを抱っこして寝かせての繰り返しです。出産前ではあまり使われなかった手指が急に酷使されます。そのため、腱と腱鞘が何度もこすれて手首などに炎症を起こしてしまいます。これは、皮膚をこすり続けると赤く荒れてくる(炎症をおこす)のと同じです。

腱鞘炎は基本的に手首、指の酷使で症状が出ます。ただ、産後はホルモンバランスの変化の影響で腱鞘炎になりやすくなっています。そこで、ここでは産後の女性が発症しやすい腱鞘炎について述べていきます。

女性ホルモンと腱鞘炎の関係

妊娠中の身体は女性ホルモンが満ちている状態です。色々な女性ホルモンが作用しあって妊娠・出産を進めていきます。しかし、ホルモンは妊娠に関係のある部分だけに作用するのではなく、全身に働きかけます。

女性ホルモンの一つ「リラキシン」は、骨盤の靭帯をゆるめ、産道を広げる働きがあります。リラキシンは骨盤だけではなく、全身に作用します。そのため、手首を含めた全身の靭帯(じんたい)がゆるむことになります。

靭帯とは、骨と骨が離れないようにつないでる帯のような組織のことです。これがゆるむと、関節が不安定になります。そのため、周りの筋肉、腱や腱鞘などの組織に負担がかかります。

リラキシンは産後2~3日で分泌されなくなります。ただ、ゆるんだ靭帯が戻るまでには少し時間がかかります。そのため、靭帯が元に戻る前に手首や指に負担がかかり始めることになり、腱鞘炎になりやすいのです。

また、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」は、妊娠の維持や乳腺の発達のために働くだけでなく、自律神経や脳の働きを調整したり、骨を強くしたりと、腱や腱鞘の弾力性を保持する働きもあります。

出産後にはエストロゲンの分泌量が激減し、腱や腱鞘が固くなります。その結果、摩擦が起こりやすくなり、炎症を生じやすくなります。

授乳中は乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が多く分泌されます。プロラクチンはエストロゲン、プロゲステロンの分泌を抑える働きがあります。そのため、授乳中はエストロゲンがあまり分泌されず、腱鞘炎が起こりやすい状態が続きます。

それでは、以下に腱鞘炎によって生じる病名を記載していきます。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)とは、手首の親指側に起こる腱鞘炎のことです。スイスの外科医の名前に由来しています。

親指には、主に「親指を伸ばす働きをする腱」と「親指を広げる働きをする腱」があります。これらの別の働きをする腱が同じ腱鞘の中を通っているので、腱と腱鞘がこすれやすい構造になっています。この部分がこすれて炎症を起こし、痛みや腫れを生じます。親指を内側に入れてこぶしをにぎり、手首を小指側に倒すと痛みが強くなるのが特徴です。

ばね指(弾発指)

ばね指(弾発指)とは、指の「屈筋腱(くっきんけん)」という部分に起こる腱鞘炎のことです。屈筋腱とは、前腕の筋肉の力を指に伝え、指の曲げ伸ばしを行うための腱です。屈筋腱は「靭帯性腱鞘」という腱鞘に包まれています。

指の酷使などにより前述の腱・腱鞘に炎症が起こり、指の付け根部分に痛みや腫れを生じます。これが進行して腫れが大きくなると、腫腱が腱鞘を通るとき(指を開くとき)に腫れた部分が引っかかるようになります。力を込めて指を開くと腫れた部分が腱鞘を一気に通過するため、指がばねのようになります。さらに悪化すると指が動かなくなることもあります。

新生児は首がすわらないため、親指を広げて頭を支え、抱き上げることがほとんどです。産後の腱鞘炎になりやすい身体状況にも関わらず、手指に負担がかかる機会が増えることになります。そのため、産後は腱鞘炎になりやすいのです。

どちらの腱鞘炎も、安静にして極力動かさないのが主な治療法になります。このときは痛み止めの内服薬や外用薬を使用しながら、患部を固定します。悪化すると手術を行うことがあるので、症状が出たら早めに病院にかかることが大切です。

すぐに病院に行けないときなどは、湿布や塗り薬などの市販の消炎鎮痛剤を使用しましょう。授乳中には使用を控えるべき成分もあるので、必ず薬剤師に相談してから購入するようにしてください。

赤ちゃんを抱くときは頭の下から身体に沿って手を差し込み、腕全体で抱き上げると手指の負担が少なくてすみます。また、マッサージをすると悪化することがありますので、自己判断で行わないようにしましょう。