妊娠による薬の奇形問題とサリドマイド事件

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自己判断で薬を使用することの危険性は大きいです。例えば、小児のインフルエンザ患者に解熱鎮痛剤を使用すると、脳症のリスクが高まります。小さな子供に対しては注意すべき点がいくつもあるのです。

年齢が低いほど薬による影響は大きいですが、母親のお腹にいる胎児は、薬の影響をより受けやすいという特徴を備えています。「妊娠と薬」は大きなテーマの一つなのです。

サリドマイド事件から考える薬の奇形

まず初めに、妊娠に関連して起こった有名な薬害事件であるサリドマイド事件から話を進めていきます。

サリドマイド事件とは、サリドマイドという薬を妊婦が服用したことで、生まれてくる子供に奇形が生じたという薬害事件です。サリドマイドは1957年に西ドイツで発売され、ヨーロッパ諸国で使用されるようになった薬です。日本では1958年からサリドマイドが発売されました。

当時、サリドマイドは睡眠薬として売り出され、「つわりなどによって起こる睡眠障害に苦しむ妊婦さん」に多く使用されていました。そして、妊婦時にサリドマイドを服用した女性から生まれた子供には、生まれつき手足が極端に短くなるなどの例が多数報告されました。

手足が極端に短くてアザラシのように見えることから、アザラシ肢症とも呼ばれています。一方、聴力に障害が出るというケースもありました。

1961年、西ドイツで「アザラシ肢症とサリドマイドの関係性」について、小児科医であり、人類遺伝学者でもあるレンツ博士が学会で発表し、初めてサリドマイドによる危険性が全世界に向けて発せられました。

この警告を受けて10日後にはヨーロッパ各地でサリドマイドの製造・販売が中止され、回収が始まりました。これを「レンツ警告」と呼びます。

一方、日本では「レンツ警告には科学的根拠がない」とされ、その後も販売され続けたのです。日本でようやくサリドマイドの製造・販売の中止、そして回収が行われるようになったのは、西ドイツでの回収措置より10ヶ月も後のことでした。

これによって日本では、サリドマイドによる被害が拡大したと言われています。サリドマイドは当時、副作用の少ない薬として売り出された「安全な薬」のはずでした。

しかし、現実には薬を服用することで、胎児に奇形を生じさせてしまったのです。このサリドマイド事件によって、催奇形性(胎児に奇形をもたらす作用)が一般の方にも注目されるようになりました。

薬の胎盤通過と自己判断の危険性

母体と胎児の血管は繋がっていません。したがって、栄養の受け渡しは胎盤を通して行われます。それだけでなく、胎児にとって胎盤は肝臓や腎臓の役割を担っており、ホルモン分泌に至るまで幅広く胎児をサポートします。

多くの細菌はこの胎盤というバリアを通過することができないため、これによっても胎盤は胎児を守っています。ただ、薬に限っては、数十個程度の原子から構成されるとても小さい物質であるため、胎盤を簡単に通過してしまうのです。

このように、薬には「胎児への影響」という大きな問題があるため、妊婦が薬を使用するときは特に慎重になる必要があります。しかし、妊婦であっても病気を抱えている人は、薬が必要となる場合があります。

例えば、糖尿病や気管支喘息、関節リウマチなどの症状を抱えている人は、薬なしでは症状が悪化してしまいます。つまり、「妊娠中に薬を服用することは恐い」と考えて薬の服用をやめると、母体や胎児に逆に悪影響を与えてしまうことがあるというわけです。これでは本末転倒です。

これを避けるため、単に薬は怖くて危険だと思い込むのではなく、医師の指示に従いながら適切に病気の症状をコントロールしていくことが重要です。