妊娠中の食事制限による胎児への影響

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食生活の変化によって女性の平均身長は年々伸び続けています。一方で、体重は身長ほど増えていません。特に20歳での平均体重は、1950年代からほとんど変わっていません。そのため現在の女性は、昔に比べて相対的に痩せているといえます。

痩せ型の人が増えているのは「細さ=美しさ」という価値観の人が増えているためだといわれています。実際に細い体を手に入れようとして、極端な食事制限を行う人は少なくありません。

同様の理由で、ダイエットをするために妊娠中にも食事制限をする女性が増えています。ただ、妊娠中の食事制限は胎児に悪影響を及ぼすことがあります。そこで、ここでは妊娠中の食事制限による胎児への影響について解説していきます。

胎児が必要とする栄養

人間が生まれるまでにはいくつかのプロセスがあります。まず、精子と卵子が出会って受精卵になります。受精卵は分裂を繰り返しながら子宮に着床して、やがて胎芽になります。胎芽は成長して胎児となり、受精から約10ヶ月後に誕生に至ります。

このあいだ、胎児は人間としての基本的な器官を作っていきます。受精卵という一つの細胞が、約10ヶ月で人間になるのです。

人間の身体は、受精卵がもつ「遺伝子」という人体の設計図をもとに作られます。このとき、身体の材料となるのは「栄養素」です。

胎児は母体からもらった栄養を材料にして、身体のさまざまな器官を作っています。そのため、母体が食事制限によって栄養が偏ると、胎児が成長のために必要とする栄養素が足りなくなることがあります。

実際、妊娠初期に葉酸が不足すると、胎児が神経管閉鎖障害を起こす危険性が高まることがわかっています。これは、胎児が神経管を作るときに材料となる葉酸が足りないために起こりやすくなります。

ほかにも、さまざまなビタミンやミネラルが神経の発達や代謝などに関わっています。また、これらは互いに作用しあって働いています。そのため、正常な発育のためにはバランスの良い食事が欠かせないといえます。

また、身体の約2割はタンパク質でできています。タンパク質がないと身体を作ることができません。また、ダイエット中に敬遠される脂質は細胞膜の主成分です。身体は一つ一つの細胞の集まりです。脂質はそのすべてに必要となる大切な成分です。

脂質に次いでダイエットの大敵とされている糖質も、胎児にとっては必要不可欠の栄養素です。糖質は、タンパク質や脂質に比べてエネルギーになるのが早いという特徴があります。胎児は成長のために多くのエネルギーを必要としています。そのため、妊娠中に糖質を制限すると胎児の発育が妨げられることがあります。

このように、胎児は成長のためにさまざまな栄養を必要としています。これらがうまく供給されないと、胎児の発育が遅れたり、低出生体重児(2500g未満の新生児)になったりする危険性があります。

母体の食事制限による子供の生活習慣病リスクの増加

母体のダイエットによる食事制限は、子供の将来にも影響します。母体の摂取エネルギー量が足りないと、胎児の摂取エネルギーが低下します。胎児の摂取エネルギーの不足が続くと、胎児はエネルギーを吸収しやすい体質になります。過酷な環境に適合するために、自らを変えていくのです。

胎児期に形成された体質は、ほとんど変わることがありません。そのため、大人になってもエネルギーを吸収しやすい体質のままなのです。

通常、現代の日本の食事ではエネルギーが不足することはありません。そのため、前述のような体質の人が一般的な食事をすると、エネルギーを必要以上に吸収して太ってしまいます。

肥満は生活習慣病の原因の一つです。以上のことから、母体が食事制限によって胎児の栄養が足りなくなると、将来は生活習慣病にかかるリスクが高まるのです。

妊娠中に必要なエネルギー量

妊娠出産にあたっての適性体重増加量は、BMIが18.5~25未満の人(ふつう体型)で7~12kg、18.5未満の人(痩せ体型)で9~12kgとされています。BMIが25以上の人(肥満体型)は個別に設定されます。

このうち、約6~7kgは胎児や羊水などの重さです。それ以外の増加量が母体の脂肪の重さとなります。妊娠中に増加する母体の脂肪はいらないものではありません。分娩や育児には体力が必要です。分娩にかかる平均時間は、初産のときで約12~15時間といわれています。この間、体力を維持する必要があります。

分娩中に体力が低下すると、分娩が長引いたり出血量が増えたりすることがあります。また、最悪の場合死に至ることもあります。そのため、妊娠中に分娩を乗り切る体力をつけておく必要があります。

特にもともと痩せ型だった人は、体力や筋肉が少ない傾向にあります。そのため痩せ型の人は、胎児や羊水などの重さに加えて母体自身の体重を増加させる必要があります。

妊娠中の肥満は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクを高めます。ただ、妊娠中の減量目的の食事制限は胎児にさまざまな悪影響があります。

母体の栄養摂取は身体の維持のために必要です。また、胎児のために栄養摂取することは、基本的な器官の形成のために必須です。妊娠中は、命を育んでいるという意識をもってバランスの良い食事を摂ることが大切です。