産後に意識して摂るべき栄養素:鉄不足と貧血

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女性にとって、出産は大仕事です。分娩時にはフルマラソン並の体力を要するといわれています。分娩後も、体力勝負である育児を行わなければなりません。

このように、女性は出産することによって多くの体力を消費します。体力を使うためには、糖質や脂質などのエネルギー源とともに、さまざまな栄養素が必要です。

また、母乳育児を行うと、食事で摂取した栄養素は母体だけはなく赤ちゃんも消費します。特に、鉄は産後に不足しやすい栄養素の一つです。そこで、ここでは産後の鉄摂取の重要性と鉄摂取のコツについて述べていきます。

産後における鉄の必要性と鉄不足の原因

鉄は、赤血球の主成分の一つです。体内における鉄の約65%は、血液内に存在しています。分娩には出血が伴います。分娩時の出血量は平均で約300mlといわれており、500mlまでは正常範囲とされています。

特に初産や帝王切開、高齢出産などでは出血量が多くなりやすいです。分娩時に大量出血した人の多くは、産院で貧血治療が行われます。

ただ、貧血が解消してから、すべての人が退院するわけではなく、貧血状態で育児を始める人は少なくありません。また、貧血ではないと診断されていても、身体の鉄の蓄えが少なくなっている「貧血予備軍」である人も多いです。

また、鉄は母乳育児によって消費されます。母乳の材料は血液です。そのため、母乳育児を行うと血液が消費されて鉄の消費量が上がります。このように、産後は鉄が不足しやすいです。産後に鉄が不足すると、材料不足によって母乳が分泌されにくくなります。

母乳量が低下すると、乳児に十分な栄養素が補給されないだけではなく、母乳育児自体を行うことができなくなることもあります。

つまり、鉄不足によって母乳の分泌がうまくいかないと、赤ちゃんの栄養補給のために人工乳を使わざるをえないこととなります。ここで、母乳は赤ちゃんが吸う刺激によって分泌されます。そのため、人工乳を使用することによって赤ちゃんが乳房を吸う機会が減ると、母乳が分泌されづらくなります。

また、母乳が分泌されづらいと、赤ちゃんは乳が出やすい哺乳瓶を好むようになりやすいです。すると、さらに乳房を吸う機会が減り母乳が出なくなります。このように、鉄不足によって母乳量が低下すると、母乳育児を妨げる悪循環が起こります。

現在の人工乳の栄養価は理想的な母乳に近いため、人工乳で育児をしても赤ちゃんが栄養不足になることはありません。ただ、母乳には免疫物質が含まれているのに対して、人工乳はこの物質を含んでいません。そのため、可能であれば母乳で育てることが大切といえます。

このように、産後の鉄補給は母体だけではなく赤ちゃんのためにも大切といえます。

鉄を含む食材

鉄には、大きく分けて「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。これらは、吸収率に大きな差があります。ヘム鉄とは、赤身の食肉、赤身や青背の魚、貝類などの動物性食品に含まれる鉄のことをいいます。摂取した鉄の約15~35%が吸収されます。

それに対して、非ヘム鉄はひじきや小松菜、ほうれん草などの植物性食品に含まれています。非ヘム鉄の吸収率は約2~20%といわれています。

非ヘム鉄は、豆類にも多く含まれています。ただ、豆類の多くが鉄の吸収を妨げる成分も含んでいます。豆類は身体に有益な働きをもつので、制限するべきではありません。ただ、鉄の補給源としては不向きです。以上のことから、鉄の摂取は動物性食品で行うほうが効率的といえます。

摂取した鉄の有効利用

前述のように、鉄は吸収率が低い栄養素です。そのため、吸収を高める成分と一緒に食べるなど、工夫して摂取することが大切です。

ビタミンCは、鉄の吸収を高めることがわかっています。ビタミンCは、生の野菜や果物に多く含まれています。そのため、これらと一緒に鉄を摂取することで鉄を効率よく吸収することができます。

また、食肉に含まれているタンパク質は鉄の吸収・利用を促進する働きがあります。この働きは、ヘム鉄だけではなく非ヘム鉄にも有効です。また、食肉の多くは鉄を含んでいるため、鉄の補給には食肉の摂取が有効といえます。

赤血球中の鉄は、タンパク質と結合して存在します。つまり、血液を作るためには鉄だけではなく、タンパク質も必要なのです。そのため、食肉は赤血球の材料である鉄とタンパク質を同時に摂取できることから、産後の貧血予防に最適な食材といえます。

ビタミンCや鉄は水溶性の栄養素です。そのため、これらは茹でたり水にさらしたりなどの調理の過程で失われやすい特徴があります。

特に、ビタミンCは加熱によっても失われやすいです。そのため、ビタミンCや鉄を効率よく摂取するためには、加熱時間や水にさらす時間を最低限にすることが必要です。特に、弱火で加熱すると加熱時間が長くなり栄養素の損失が多くなりやすいです。そのため、焦がさない程度に強火で調理を行うことが大切です。

また、コーヒーや緑茶、紅茶などには鉄の吸収を妨げる成分が含まれています。また、これらはカフェインも含んでいます。授乳期のカフェイン摂取は母体や赤ちゃんに悪影響があります。そのため、これらの摂取は最低限にすることが大切です。

鉄の摂取には、鉄鍋の利用も有効です。鉄鍋に含まれる鉄は調理中に料理へ溶け出します。条件によって変動しますが、鉄鍋を利用して調理をすると100gあたり1mgほど多く鉄を摂取できるというデータがあります。例えば、100gの小松菜が含む鉄は約2.8mgなので、100gの小松菜を鉄鍋で炒めると鉄の摂取量が約1.3倍になります。

もともと、女性は月経によって定期的に血液が失われるため、慢性的に鉄が不足しやすいです。閉経前の女性の多くが、鉄不足による症状を抱えているといわれています。そのため、授乳期にかぎらず鉄の摂取を習慣にすることが大切です。鉄の摂取を意識しながら、バランスの良い食事を心がけましょう。