うつ病から認知症へ進行させないための対処法

うつ病は社会的、心理的、身体的に多様な症状を伴うつらい病気です。一方で、うつ病が原因で別の病気に進行してしまう場合があります。例えば、認知症はうつ病から進行する病気の一つです。

うつ病と認知症の関係性を理解せずにうつ病や認知症の治療を行うと、治療効果が見られないだけでなく、お互いに病気を悪化させてしまう可能性があります。

ここではうつ病と認知症との関係性について説明します。特に、うつ病から認知症に移行しないための注意点と治療法について理解していきます。

認知症とうつ病はどのような関係か

一般的に認知症は「脳が構造的に障害をうけて、正常に発達した知能が低下した状態」とされています。例えば、アルツハイマー型認知症では脳の萎縮が進むことで、記憶や感情コントロールなどの機能が低下します。そのため、記憶障害がおこったり感情のコントロールができず攻撃的あるいは意欲低下になったりすることがあります。

高齢者においてうつ病と認知症の症状を区別するのは簡単なことではありません。なぜなら、うつ病でも記憶障害や感情コントロールができない場合があるからです。治療方法の選択という意味で明確に区別した方が良いですが、実際には明確な区別は難しいといえます。そのため、どちらの症状かわからない状態でも認知症の治療とうつ病の治療を組み合わせることで対処します。

うつ病と認知症の関係性には、「うつ病と認知症が併発している場合」や「うつ病が認知症に見える場合」があります。前者は認知症の治療に追加でうつ病の治療をすることで改善が見られます。また、後者は認知症の治療で改善されない場合、うつの治療に変更することで症状が改善します。いずれにしても積極的にうつ病の治療が進められています。

一方で、「うつ病が時間経過とともに認知症に移行する場合」があります。うつ病の治療で精神症状は改善されたのに、観察を続けていくと、認知症に移行していく危険性が高いことが知られています。

特に、うつ病になった回数が多く、重症度が高い場合は認知症になるリスクは高くなります。また、うつ病の発症時期と認知症発症リスクの関係性は認められていません。言い換えると、いつの年齢でうつ病になったのかにかかわらず認知症を発症するリスクが高くなるということです。

また、認知症の初期にうつ状態や意欲・自発性の低下を引き起こすことが多いです。これらの症状は認知症の早期診断の大切な指標です。認知症を予防したり、認知症に関連した精神症状を改善したりするために、うつ病の治療を行うことが重要だといえます。

なぜうつ病は認知症を引き起こすのか?

認知症は脳が萎縮することで、記憶や感情のコントロールができなくなり、やがて食事や日常生活にも支障が出てくる病気です。一方で、うつ病の患者さんは脳の海馬と呼ばれる部分が萎縮していることが指摘されています。

精神的、肉体的なストレスによって脳の中の脳由来神経栄養因子(BDNF:brain-drived neurotrophic factor)が減少することが知られています。BDNFは脳の中の神経栄養物質として知られており、海馬に多く存在し、学習や記憶の成立に深く関わっています。

古典的には成人の脳では新たに神経細胞は作られないと考えられていましたが、近年の研究では海馬などで神経新生(神経が新たに作られること)が報告されています。BDNFは新たな神経が作られる過程に深く関与しています。

ストレスが原因によって起こるうつ病では、脳の中のBDNFが減少することが報告されています。うつ病になると神経新生が起こりにくくなり、脳の萎縮が進みます。そして、脳の萎縮が進み、認知症になるリスクが高くなるのではと考えられています。

認知症を併発したうつ病の治療で注意すること

認知症とうつ病では症状が似ているため、同時にそれぞれの治療が行われる場合があります。治療の選択を間違うとお互いの症状を悪化させてしまう可能性があるので注意する必要があります。

例えばうつ病の治療で使われる三環系抗うつ薬を飲む際には注意が必要です。認知症の治療ではコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる薬が使われる場合があります。認知症ではアセチルコリンと呼ばれる神経の情報伝達に使われる物質の機能が弱くなっています。そのため、認知症の薬はアセチルコリンの機能を高めます。

一方で、三環系抗うつ薬は抗うつ作用の他にアセチルコリンの働きを弱くする作用を持っています。そのため、認知機能を低下させたり、意欲を低下させたりして、認知症治療薬の作用を弱くしてしまう可能性があります。

認知症治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬にはアリセプト(一般名:ドネペジル)、レミニール(一般名:ガランタミン)、イクセロン・リバスタッチ(リバスチグミン)などがあります。これらの薬を飲んでいる人が三環系抗うつ薬を飲む場合は注意が必要です。

次に、認知症の症状の中でうつ病と似た症状でアパシーと呼ばれる症状があります。活動性が低下したり、意欲が低下したりする症状がでるため、うつ病と完全に区別するのは難しい症状です。アパシーは認知症で脳が萎縮することによって起こる症状なので、うつ病と間違って抗うつ薬を使用しても改善しないことが多いです。

さらに抗うつ薬の副作用でフラつきや転倒を引き起こし、日常生活に支障が出る場合もあります。むやみに抗うつ薬を使うことは控えることが大切です。アパシーに対しては脳賦活薬や料理、掃除、運動、趣味などで認知症の症状を改善する作業療法が良いとされています。

うつ病から認知症に移行しないためには?

では、うつ病から認知症に移行しないためにはどうすればよいかについて説明します。重要なポイントが3点あります。

1つ目がうつ病が軽度な状態で治療を開始することです。うつ病になる回数が多かったり、重症のうつ病に進行したりすると認知症になるリスクが高くなります。重症化を防ぎ、うつ病を複数回起こさないために初期段階で治療することが大切です。

2つ目は、いつうつ病が起こっても治療を怠らないことです。うつ病の発症時期と認知症の発症リスクとの関係は分かっていません。若い時代に起こったうつ病の治療を怠ると、将来認知症にかかるリスクが高くなります。

3つ目はうつ病が治ってからも継続的に検査を行うことです。うつ病の症状は改善してからも、認知症に移行していく危険性が高いからです。うつ病の治療を行い、病状が良くなってからも常に認知症へ移行する可能性を想定しておきましょう。必要に応じて神経画像や認知機能検査を受けて認知症の症状が出ていないか観察して行くことが大切です。

このように、うつ病は認知症に進行する可能性がある病気です。また、認知症の症状の裏にはうつ病が隠れている可能性があります。認知症の治療をして改善しない場合、うつ病かも知れないと疑ってみることが大切です。うつ病を早期で発見して、治療を行い、重症化を防ぐことでうつ病から認知症への進行を予防することができます。