脳血管疾患とうつ病の関係性

%e9%a0%ad%e3%82%92%e6%8a%b1%e3%81%88%e3%82%8b%e7%94%b7%e6%80%a7

うつ病は単独でかかったとしても命の危険がある重大な病気です。一方で、ある種の病気とうつ病を併発すると、お互いに悪影響をおよぼすことが知られています。例えば、脳卒中などの脳血管疾患はうつ病を引き起こす病気の一つとして知られています。

脳卒中は脳梗塞や一過性脳虚血発作、脳出血、くも膜下出血などの脳血管が詰まったり、破れたりすることで発症する病気の総称です。脳血管疾患の患者さんのうち、約14%~17%がうつ病になることが分かっています。

また、脳卒中を発症してから1年後には23%の人がうつ病になるとの報告もあります。ここでは、脳血管疾患でうつ病が発症するメカニズムと注意点、さらには治療法について理解してもらいます。

なぜ脳卒中になるとうつ病になりやすいのか?

脳卒中のあとにうつ病が起こるメカニズムとして2つの原因が考えられています。1つ目は脳卒中で損傷を受けた部位によって、うつ病になってしまう可能性が高くなります。

例えば、脳の左前頭葉を損傷した方では、睡眠障害や食欲低下、不安感、焦燥感、憂うつな気分などのうつ症状が出やすいといわれています。また、脳の基底核を損傷した場合は意欲低下の症状が強く出ると報告されています。

2つ目は脳への障害によって、少しずつストレスに対して弱くなっていくためといわれています。ストレスに対して脳が弱くなっていくため、外部のストレスを健康な状態よりも感じやすくなります。その結果、健康な人に比べてうつ病になる可能性が高くなります。

脳卒中などの脳血管疾患によって脳の障害を受けた場合、上記のようなメカニズムによって、うつ病になるリスクは健康な人に比べて非常に高くなります。

うつ病と脳血管疾患はお互いの症状を悪化させる

重度なうつ病にかかると脳卒中になるリスクが1.7倍になることが分かっています。また、うつ病が脳卒中を引き起こすリスクは喫煙や糖尿病、心疾患などのリスクよりも危険性が高いとする研究もあります。

さらに、脳卒中患者さんのなかで、うつ病の症状がある人とない人の10年後の死亡率を比べた研究があります。その報告では、脳卒中にうつ病を併発すると10年後の死亡率が3.4倍になると報告されました。

このように、脳卒中とうつ病はお互いに病気を引き起こし、同時にかかることで病状を悪化させます。そのため、脳卒中を悪化させないためにもうつ病の治療を行うことがとても大切だといえます。

うつ病に気づくための注意点

脳卒中を起こした後に、うつ病があるかどうか判断するためには3つの問題があります。1つ目は一般的なうつ病で頻繁に見られる症状が違う可能性があります。一般的なうつ病では抑うつ状態と呼ばれる、自分に対する無価値感や強い悲哀感などが見られます。

一方で、脳卒中後のうつ病では意欲低下、自発性の低下や無関心などの症状が見られる場合が多いといわれています。

2つ目の問題は脳卒中自体の症状との区別が難しいことです。情緒不安定や疲労感、認知機能の低下はうつ病にも脳卒中後にも見られる症状です。

3つ目は脳卒中による後遺症でコミュニケーションに障害が出ることがある点です。言葉に障害が出たり、顔に麻痺が残ることで表情が読み取りづらかったりします。

これらを踏まえると自分や周囲の人がちょっとした気持ち、言動、行動の変化に気づき対策を取ることが重要です。特に意欲低下や無関心などの感情や意欲を失うような状態は脳卒中後のうつ病の特徴なので、注意して観察することが大切です。

治療方法

脳卒中後の治療には3つの有効な方法が知られています。

まずは薬物治療です。脳卒中のあとのうつ症状には2種類の薬剤が効果的であることが知られています。例えば脳循環改善薬で脳の循環を良くすることで意欲低下を改善します。脳循環改善薬であるサアミオン(一般名:ニセルゴリン)が効果的であると知られています。もう一つは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬などの抗うつ薬です。

ただし、脳卒中患者では、脳が弱っているので薬物療法は少ない量からはじめて増量も慎重にすることが大切です。また、SSRIは薬の分解に係る酵素(代謝酵素)に対して影響を与えます。脳血管疾患の患者ではたくさんの薬を飲んでいる場合が多く、薬の飲み合わせには注意が必要です。

2つ目が認知行動療法です。物事に対する考え方や対処方法を変えて、ストレスに対処するという治療法です。一般的なうつ病では、認知行動療法は薬物療法と同等の効果があると報告されています。

3つ目が運動療法です。一般的なうつ病に対して、運動療法は認知行動療法と同程度の効果があると報告されています。有酸素運動と無酸素運動では有効性に差はない(どちらも効果的)と言われています。また、軽い運動と中等度の運動を比較した研究では、中等度の運動でのみ効果があったと報告されています。

このことから、有酸素運動、無酸素運動にかかわらず、ある程度の強度をもった運動をすることで抗うつ効果があると考えられます。ただし、心臓病などを合併し運動の制限がある場合もあるので、自分の状態を把握しながら、無理しない程度の運動をする必要があります。

周囲のサポートが重要

脳卒中の患者さんの予後を考えると、障害を受け入れることと希望を忘れないことのバランスが大切です。

脳卒中では発症部位によって、言語障害、顔面神経麻痺、手足の運動障害などのさまざまな障害が残ります。脳卒中患者さんのリハビリの場面では、麻痺したことにくよくよ悩んでいる様子が見受けられます。自分の障害が受け入れられず、リハビリに集中できないため、効果が十分に上がりません

一方、うつ病の患者さんは、自分が頑張らないといけないのを誰よりも理解しているが、それができなくて苦しんでいます。頭の中で考えがまとまらず、追い詰められた気持ちになり、いっそに死にたくなることがあります。

一般的にうつ病の患者さんは、うつ状態が良くなるまでは大きなストレスを与えないことが大切だといわれています。なぜなら、ストレスを与えることによって絶望し命をたってしまう可能性があるからです。

そのような状態であるため、周囲の人は脳卒中の障害を受け入れて、リハビリに集中するように伝える場合があります。リハビリに意欲的に取り組んでもらい、少しでも改善してもらうためです。しかし、当の本人からすると受け入れることができない現実であり、脳卒中による体の麻痺がとても大きなストレスになっています。

脳卒中の患者さんの多くがうつ病になりやすい現状を考えると、早急に脳卒中の予後を伝えて、障害を受け入れるように周囲から迫らないことが大切です。

くよくよ悩んでいるのは、自分が治るかも知れないと希望を持っている状態ともいえます。適度に希望をもつことはうつ状態を予防することにつながります。こうした希望を維持しつつも、リハビリに励んでもらうのです。

うつ病を予防し、意欲的にリハビリを続けるために、周囲の人が気持ちの面でサポートすることがとても重要です。

このように、脳血管疾患とうつ病は互いに悪影響を及ぼします。うつ病の治療をしっかりと行うことで、脳卒中による死亡のリスクを軽減することができます。また、治療については薬物治療に加えて、認知行動療法や運動療法も有効です。

日常生活の中で考え方や捉え方を変え、運動を取り入れることでうつ病の治療につなげることができます。また、うつ病の発見、治療や脳卒中後のリハビリにおける周囲のサポートもとても重要です。積極的かつ適切に患者さんと向き合うことで、うつ病と脳卒中の改善につなげることができます。